東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)127号 判決
一 前掲請求の原因のうち、原告を特許権者とするその主張の発明について、被告らがなした特許無効審判の請求から審決の成立にいたる手続、発明の要旨及び審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、右審決に原告主張の取消事由があるか否かについて考察する。
1 本件発明の基本的技術手段について
前示一の本件発明の要旨には接点製作の過程において異種の金属線を接合するため冷間圧接法を採用することの明示がないが、右発明の要旨に「……それぞれ異種の金属線を剪断と同時に前記軸線上に重なるように供給する……」とあることに加え、その明細書の発明の詳細な説明中、成立に争いのない甲第二号証(特許公報)により認められるように、「本発明は、比較的安い基礎材料に銀などの貴金属材料を拡散結合作用を利用して圧着結合成形させる装置を提供することにある。そして、このような拡散作用を利用して異種の金属を重合結着させるには両者の剪断面が新しいうちに瞬間的に行なう必要がある。」(公報第一頁左欄第二四ないし二九行目)、「本発明の装置により強固な接合部を形成する部分は破断面17の部分である。この破断面17は、剪断直後において破断による熱のため温度上昇を来しており、かつ、清浄で非常に活性度が高く、更にミクロ的に見れば凹凸が激しく、従つて活性面の面積が大きいため、この発明の装置で製造される接点のように比較的変形度の少い圧着方法でも強固な接合面を得ることができる特徴を有する」(同頁右欄下から四行目ないし第二頁左欄五行目)との記載があること並びに成立に争いのない甲第五ないし第七号証の各一ないし三をあわせ考えると、本件発明は、常温において金属に圧力のみを加えてこれを接合する、いわゆる冷間圧接法を採用したものであることが認められる。
してみれば、本件発明が冷間圧接と熱間圧接とのいずれの方法を採用したか明瞭でないとした審決の認定は誤りであるけれども、審決は本件発明が冷間圧接法を採用したと仮定して引用例の装置と対比しているから、右誤認は審決の窮極の判断に影響するところがなかつたものというべきである。
なお、前出甲第二号証によつて認められる本件発明の明細書全体の記載に照らすと、その発明の要旨にいう「同時に」とは原告主張のように「同時及びこれにきわめて接近した時間に」の意味に解するのが相当であるが、一方、これを「接点製造装置における間歇的に回動する円盤の一間歇的回動動作に要する程度の時間に」の意味であるとする審決の解釈も前示の趣旨を、本件発明の図面第2図に示される実施例に即して具体的に表現したにすぎないものと解されるから、あながち誤りとはいえない。
2 引用例の装置について
成立に争いのない甲第四号証(引用例)によると、引用例は、名称を「抵抗溶接された成形部品、特にバイメタル接点の製造用装置」(Mashine zur Herstellung von widerstandsgeshweissten Formteilen, insbesondere von Bimetallkontakten)とする発明の明細書であつて、これには、電気抵抗熱を利用した熱間圧接法(Warmpressschweissen mittels elektrischer Widerstandserwarmung)によつて二種の金属線を接合して成る接点の製造装置が示されていること、そして、その装置は、審決認定のように、間歇的に回転し、かつ、二種の金属線を上方から受入れる複数の剪断型3を備えた円盤1と、出口に刃物の縁が形成されている金属線案内6、8と、熱間圧接用プレス装置(Presswerkzeug zum Warmpressschweissen)9と、仕上げプレス装置(Presswerkzeug zum Fertigpressen)12と、前記剪断型にその下方から挿入する針棒13とから成り、その熱間圧接用プレス装置が成形型を兼ね、工程の第一、第二段階において、円盤1の間歇回動により、異種の金属線を案内6、8の位置で剪断型3に重なるように供給し、第三段階を経て、第四段階において熱間圧接を行うようにした構成であること、なお、引用例には右装置に対する公知の先行技術として冷間圧接法(これが公知技術たることは原告も争わない。)によるバイメタル接点の製造装置が示されているが、その装置は、受型とヘツダー(上下に重なり合うプレス)、二個のカツター及び誘導パイプ(金属線供給部)から成り、金属線がそれぞれのカツターにより剪断されて受型に供給され、引続いて受型とヘツダーにより冷間圧接(プレス)成形される工程を行うようにしたものであり、また、この場合、金属線供給とプレス作業とを連続的に行なうため剪断型を備えた回転円盤を利用するものがあること、そして、引用例の発明は、これらの技術を出発点として、右のような円盤を設け、かつ、電気抵抗熱を利用する熱間圧接法によつてバイメタル接点リベツトを製造する装置を創案したものであることが認められる。原告は右認定のうち、引用例の装置の金属線案内6、8の出口に刃物の縁が形成されていること、9の装置が熱間圧接用プレスであり、12の装置が仕上げプレスであることを否定し、審決のこの点の認定を誤りであると主張するが、引用例には前示認定を覆して原告の右主張を肯認する根拠となるような記載がない。
なお、原告は、引用例の異種金属線接合に関する技術手段が電気抵抗を利用する溶接法であつて、圧着接合法とは全く異なる旨を主張して、熱間圧接法たることを極力争うが、前出甲第五ないし第七号証の各一ないし三によると、金属接合法の一種である溶接には、大別して圧接(固相間接着)、ロウ接(固、液相間接着)及び溶融溶接(液相間接着)の三方法があること、そして、冷間圧接と電気抵抗溶接とは、いずれも圧接に属する技術であつて、ただ、前者が常温において圧力のみを加えるのに対し、後者が圧接にあたり電気抵抗熱を利用する点において差異があるだけで、外部から金属の接合部に圧力を加えることによつて溶着する点、すなわち金属を圧着接合する点において一致していること、したがつて、電気抵抗溶接も熱間圧接法に属するものであることが認められるから、原告の主張は誤解に基づくものという外はない。
3 両者の構成上の対応について
以上に説示した本件発明及び引用例の装置の各構成に徴すれば、両者は、いずれも異種金属線を剪断して成形型に供給のうえ圧接成形させて接点を製作するものであつて、その工程中、金属線の剪断、供給及び押圧、成形の作用に関与する各機構ごとに対応するものということができる。すなわち、
(一) 本件発明において右工程の最終段階たる押圧、成形に関与する機構は受型とヘツダーとであるが、引用例の装置も、同様の機構として、本件発明の受型に相当する「剪断型3と針棒13」と同じくヘツダーに相当する「熱間圧接用プレス装置(溶接機)9及び12のヘツダー」とを備えているから、両者の右機構は、いずれも押圧、成形作用を営むことに着目する限り、互いに対応するということができ、金属線接合法の差異並びにこれに起因する装置自体の具体的構成の差異のごときは、ここにおいては問題外というべきであつて、審決が右機構について両者を対応させた点(前掲(イ)、(ハ))に誤りはない。
(二) 本件発明において、異種金属線の剪断、供給の工程に関与する機構は剪断と同時に受型とヘツダーとの同一軸線上に重なるように供給する構成であるが、引用例の装置も、前記認定のように、円盤1の回動により異種の金属線を案内6、8の位置で剪断型3に重なるように供給のうえ熱間圧接を行う以上、本件発明における受型及びヘツダーに相当する前記のような装置を備え、かつ、これらの同一軸線上に金属線を重なるように供給する構成でなければならないから、その剪断、供給機構は本件発明のそれに対応するというべきであつて、審決が両者を対応させた点(同(ロ))に誤りはない。原告は、本件発明における受型とヘツダーとが予め同一軸線上に固定されているとして、その金属線供給機構と引用例の装置におけるそれとを対応しない旨を主張するが、本件発明の要旨には、この点に関し、「……受型と同一軸線上にヘツダーを臨ませ」とされているのみであり、前出甲第二号証によれば、その明細書中、発明の詳細な説明にも右機構が予め固定された構成であることを窺わせる記載は存しないのみならず、かえつて、その図面(〔編註〕省略)第1図において、仮に受型1を左右の誘導パイプ4、6の位置まで移動させて、これに切断した異種金属線を供給のうえ、ヘツダー2の同一軸線上の位置に復帰させて押圧成形するように設計したとしても、その目的、効果に鑑みれば、本件発明の実施例として妥当するものと考えられるから、本件発明の右機構を予め固定された構成であるとすることはできない。
4 両者の構成上の対比について
本件発明及び引用例に関し既に認定した事実に前出甲第二号証及び第四号証をあわせ考えると、本件発明と引用例の装置とは、それぞれ対応する前記(イ)ないし(ハ)の機構を備え、これにより異種の金属線を剪断と同時に同一軸線上に重ねて圧接成形するようにした接点製造装置である点で一致するといえるが、審決認定のように、(a) 所望の接点形が、本件発明においては、その発明の要旨に「所望の接点形を備えた受型」とあつて、受型のみによつて形成されるように表現されているのに対し、引用例の装置においては、溶接機のヘツダー、剪断型、針棒の三者によつて形成されている点、(b) 本件発明においては、その要旨表現上、受型が単体で回転しない物体であるかのように受取られるのに対し、引用例の装置においてこれに対応し剪断型と針棒とからなるものは円盤とともに回転する物体である点及び(c) 金属線を接合する方法として、本件発明が冷間圧接法を採用するのに対し、引用例の装置が熱間圧接法を採用する点(但し、審決の認定の一部には前記1のような誤りがある。)において相違していることが明らかである。
しかしながら、両者の以上のような構成上の差異については下記のように技術上格別の意義を認めることができない。
(一) 右(a)の相違点について
審決指摘のように、元来、接点形が接点の圧接成形に関与する部材によつて任意に形成されうるものであることは経験則上明らかであり、前出甲第二号証によれば、現に、本件発明の明細書中、発明の詳細な説明及び図面には、接点形が受型のみでなく、受型とヘツダーとの二者によつて形成される例があることが認められるところ、本件発明はその要旨において接点形を形成する受型の具体的構成を何ら限定していないのであるから、接点形形成に関する引用例のものとの右相違点は、結局、当業者が任意に選択することのできる範囲内の事項であるといわざるをえない。
原告は、本件発明においては、引用例のものと異なり、種々の形状の接点を製作することができる旨を主張するが、さような効果は、本件発明において受型等の構成上格別の限定がなされたことによるものではなく、そのような限定がなされないことによつて生じるにすぎないから、これをもつて本件発明に特有の効果であるということはできない。
(二) 同(b)の相違点について
本件発明においては、その要旨の表現上、受型が単体で回転しない物体のようにもみえるが、それは受型自体及びこれと同一軸線上にヘツダーを臨ませる具体的構成に何らの限定がないことによる受取り方の一つにすぎないと解するのが相当であるから、これを単体の固定したものとするか、それとも引用例のように複数の部材からなり、ヘツダーが同一軸線上に臨むまで円盤の回動に伴い回転するものとするかは当業者が任意に選択できる範囲内の事項であるというべきである。
原告は前者の構成が後者の構成による装置の難点を解消するという格別の効果がある旨を主張するが、そのような効果もまた、前記(a)同様の理由により、本件発明に特有の効果とはなし難い。
(三) 同(c)の相違点について
前記のように、引用例には、異種金属線の接合方法として公知技術たる冷間圧接法による装置を改良した熱間圧接法による装置の発明が先行技術たる冷間圧接法による装置(その構成は本件発明のそれと実質上ほぼ同一と考えられる。)とともに開示されているのであるから、異種金属線の接合に関し、当業者が、引用例の記載全体から、本件発明の採用する冷間圧接法に想到することは容易であつて、格別の発明力を要するものと思えず、そのいずれの方法を採用するかは単なる選択事項の域を出ないものというべきである。
なお、原告は、本件発明が引用例の装置と、この点において相違するため作用効果上格段の差異がある旨を主張するが、ここで本件発明の先行技術として対比したのは、熱間圧接法を採用している引用例の装置自体ではなく、引用例記載の冷間圧接法であるから、原告の主張は的外れというほかはない。
5 以上のとおりであるから、右(a)ないし(c)の相違点に対する審決の技術的評価もすべて正当であつて、本件発明を引用例全体の記載に基づいて容易に発明することができたものとして、これを無効とすべきものとした審決の判断に誤りはなく、これに原告主張の違法があるということはできない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。